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2019.06.27コラム知っていますか? ぎっくり腰の正体

ある日私の外来に、「昨日、物を持ち上げようと中腰になった時、腰にピキッという音がしてぎっくり腰になってしまいました。」といって50代の男性が来られました。 そこで私は「ぎっくり腰というのは、病名ではなく一つの症状を表す言い方なんです。広島の郡部や島のお年寄りには「びっくり腰」と呼ぶ人もいるんですよ。」 といって診察を始めました。

『ぎっくり腰』はその名の通り「突然に来た腰痛」という意味で、これは西洋では「魔女の一撃」といわれるそうです。では突然に腰が痛くなる病気とはどんなものがあるのでしょうか?

腰のまわりの筋肉の肉離れや炎症が生じる場合(筋々膜性腰痛症)であったり、腰の骨ひとつひとつの間の関節に捻挫が起こって痛みを発する場合(椎間関節捻挫、腰椎捻挫)が あります。また腰の椎間板軟骨の一部に亀裂が入ったり(椎間板ヘルニアの一歩手前の状態)、あるいは椎間板ヘルニアでも椎間板の突出がそれほどでもなく、坐骨神経痛が出な くて腰痛だけが出た場合もあります。

骨の量が減って起こる骨粗鬆症になっているお年寄りでは、ちょっとした外傷で腰の骨がつぶれて圧迫骨折が起こってしまう場合もあります。これらの原因を考えてみると、ぎっくり腰が生じる背景には腰の骨(腰椎)の老化が存在すると考えられています。
もちろん、20代や30代の若者のぎっくり腰もありますが、人間が1歳頃から直立歩行を開始してからのことを考えれば腰には20年、30年という長年の負担がかかってきた訳です。
もし『老化』という言葉が適切でないなら『経年的変化』といった方が良いかもしれません。
10代以下のぎっくり腰の患者さんはこれまでに見たことがありませんが、10代後半になるとスポーツなどの比較的軽い外力の積み重ねで椎間板を傷める子どもがいます。

ぎっくり腰の背景にある腰の老化(経年的変化)に対しては、『治す』つまり『若返らせること』は不可能です。しかし、急に起こったぎっくり腰は、安静を保つことで症状を和らげることは可能です。
急に起こった痛い箇所には必ず炎症が生じています。
急性炎症が起こりたんこぶが出来ているところをマッサージしたり暖めたりする人はだれもいません。
いちばん楽な姿勢をして安静にしおよそ3~7日間の急性炎症が治まるのを待つことが必要です。
初めのうちは風呂に入って暖めるのも避けた方が良いでしょう。消炎鎮痛剤や湿布といった薬の使用は効果的です。時には、消炎鎮痛剤を注射することも有効です。

急性の痛みがやわらいだら予防が必要になります。
ぎっくり腰になる時は、ある種のきっかけのような出来事があるのが普通です。例えば、物を持ち上げるといったことです。ぎっくり腰を防止するには、こういったきっかけとなるような動作をしないことも大事なのです。
引っ越しや大掃除などで腰に負担をかけると思われる時には、あらかじめコルセットや腰に巻くベルトをつけておくようなことが大切です。この意味では天然のコルセットである腹筋や背筋を日頃から鍛えておくのも重要なことです。私はよく人の体を、古くなった鉄筋コンクリートのビルに例えて説明をしています。鉄筋(腰椎)が朽ちて弱くなっても、回りのコンクリート(筋肉)がしっかりしていれば地震が来てもそのビルは倒れません。しかしコンクリートにひびがはいって弱くなっていれば、もう支えきれなくなって倒れてしまいます。また、屋上にたくさんの荷物を積んでおく(太る)と倒れ易くなってしまいます。つまり腰が老化していても、腰のまわりの筋肉をつけることと太らない事で、ちょっとしたきっかけくらいではぎっくり腰にならないようにできるのです。

腹筋がなくなっておなかのぽっこりと出た50代の男性は、このぎっくり腰の正体の説明にふむふむとうなずいておられました。