2019.06.27コラム予防していますか? 骨粗鬆症
ある日、私の外来に『自宅で脚をひねってから急に歩けなくなった。』と50代の女性が救急車で運ばれてきました。レントゲンを撮ってみると、高齢者に多い股関節の骨折である大腿骨頚部骨折でした。
本人にそのことを説明すると、『私はまだ若いのに栄養が足りなかったのかしら?』と非常に落胆されました。入院後この女性の骨の量(骨密度)を測定すると、同年代の女性の平均の約60パーセントしかなく骨粗鬆症と診断しました。
この女性の骨粗鬆症発症の原因を考えていくうちに色々な点がみつかりました。
彼女は、カルシウムを多く含む乳製品が苦手で特に牛乳が嫌いでした。また、20代からのヘビースモーカーで1日1箱吸っていました。コーヒーも1日数杯飲むということでした。
骨粗鬆症や骨折のリスクに関連したライフスタイルとして、食生活の問題、特にカルシウムやビタミンD、ビタミンKの摂取の他、最近、喫煙や飲酒、カフェインについても問題視されています。
近年、若い女性の喫煙率が非常に高くなってきています。
ニコチンは食べ物の中にあるカルシウムを体内へ吸収しにくくしたり、体の中にあるカルシウムを尿から排泄してしまったりします。また、骨の形成を促すエストロゲンというホルモンの生成を阻害したり、あるいは直接に骨の細胞の機能を低下させたりします。20代の女性が閉経までのあいだ毎日タバコを1箱吸うと、全く吸わない人と比べて約10パーセント骨の量が減っていたという報告があります。
アルコールの骨への影響は、中等量以下では問題ないと言われますが、多量摂取では肝臓の機能が低下して、ビタミンDの代謝障害が発生したり、栄養状態が悪くなり骨の量が低下するとされています。
もちろん大量飲酒では、泥酔して転倒したりするといった違った意味での骨折の頻度も高くなります。
コーヒーなどに含まれるカフェインは、尿からのカルシウムの排泄を高めて、多量に飲むとニコチン同様骨の量が減少すると言われます。成人が、1日にコーヒーを3杯(カフェインにして450mg)以上摂ると骨の量が減少したという外国の報告もあります。
日本人のカルシウム摂取量は、平均で1日585mgといわれ、最低必要量とされる1日600mgには達していません。特に最近の若い年代の偏食はひどく、20代の女性は必要量の約80パーセント、男性は約85パーセントしか摂っていません。また発育期のカルシウム必要量は600mg~900mg、妊婦や授乳婦は900mg~1100mg必要とされています。従って、特に女性は若い年代からカルシウムを必要としており、その不足は骨密度の低下につながります。
最近のやせ型嗜好の若い女性の栄養状態をみると、カルシウムの摂取不足もさることながら、エネルギーの摂取不足により、摂取したカルシウムが効率良く吸収利用されず、これもまた骨粗鬆症の重大な危険因子となっています。
近年、外来では、骨粗鬆症の患者さんが増加して、各種の薬や注射により治療をしていますが、今のところ著効を示す特効薬は無いのが現状です。従って、若い年代から骨の健康を考えた食生活や生活習慣をつけていくことで、骨密度の減少を予防することが、骨粗鬆症の治療の最も基本的なそして可能な方策のひとつなのです。