2019.06.27コラム知っていますか? タバコの影響
今回は、タバコの影響についてお話しましょう。最近世界の先進国では、喫煙による健康障害が大きな社会問題となっており、飛行機の機内はすべて禁煙、また生命保険料も喫煙者と非喫煙者では保険料に大きな差をつけている保険会社も出ています。皆さんもよくご存じのことかもしれませんが、喫煙が体にどんな影響を与えているか考えてみましょう。
今やがんによる死亡原因第1位の肺がんとたばこの因果関係は明白で、毎日喫煙する人は非喫煙者に比べて4~5倍の確率で肺がんにかかっています。喉頭がんに至っては20~30倍の確率です。男性喉頭がん患者の99%が喫煙者です。また女性では喫煙者は非喫煙者の約2倍の確率で子宮がんが発生するといわれています。喫煙者は不妊症になりやすく、妊娠した場合でも流産や死産の確率が高くなります。また母乳を通して赤ちゃんの身体知能発育の遅延、あるいは間接喫煙(本人は喫煙していなくてもまわりで煙りを吸い込んでいる状態)により肺炎や気管支炎を引き起こすことにもなります。夫の喫煙によって妻の発がん率は2倍になり、職場では職種による違いはあるものの間接喫煙者の肺がんによる死亡率は喫煙者のいない職場の4~6倍に増加するという報告もあります。
さて、『タバコは百害あって一利なし』とよくいわれますが、ある調査によれば喫煙者の6~7割の人が「出来ることならタバコをやめたい」と考えているそうです。でも実際になかなかやめられないのは『ニコチン依存症』という一種の中毒症状になっているれっきとした病気だからです。タバコにはニコチン、タール、一酸化炭素といった有害物質が含まれています。ニコチンは吸って20秒前後で脳に達し快感や満足感といった神経作用を及ぼしたり、末梢血管の収縮や血圧の上昇、心拍数の増加など循環器系にも影響を及ぼします。また、ごく微量で人を殺せるほどの猛毒物質でもあり、乳幼児には下手をするとたった1本の誤飲事故が命取りになる危険を持っています。タールは発がん物質で、毎日ウサギの耳にタールを少量ずつ塗りつづけるとその部分に皮膚がんが発生します。一酸化炭素は酸素の何百倍も血液に取り込まれやすく、全身の組織に血液によって送られるはずの酸素が一酸化炭素により阻害されます。ヘビースモーカーの全身の細胞の約15%が酸欠状態に陥っていると言われます。
では、整形外科の疾患とタバコの関係を考えてみましょう。骨折すると血流によって酸素と言う栄養をもらい骨細胞が増殖してこの結果骨がついていきます。ニコチンは末梢血管を収縮して血流を阻害し、その栄養となる酸素を送りにくくさせたり、ニコチンの有毒作用により骨細胞の増殖を阻害します。その結果、喫煙者では非喫煙者に比べて骨がつくのに約2倍の時間がかかり、骨がつかない確率も3~4倍高くなるといわれています。
また、ニコチンは食べ物の中にあるカルシウムを体内に吸収しにくくしたり、体の中にあるカルシウムを尿から排泄してしまったりする結果、骨の密度を低下させ老化を早めます。これによって骨粗鬆症を引き起こしやすくなるのです。また骨だけでなく軟骨の病気である椎間板ヘルニアへの影響についても明らかで、喫煙者の椎間板はニコチンが引き起こす血流障害により老化しやすくなり、ちょっとしたことで椎間板が破壊されて腰痛が起こります。血流障害とは恐ろしいもので心筋梗塞や狭心症といった内科的なものだけでなく、手や足の動脈が閉塞して血の流れが悪くなり、最悪の場合手足の先端から腐っていきそこから先を切断せざるをえなくなるというパージャー病という恐ろしい病気も発生することがあるのです。
こうしてみると、『喫煙』はこの紙面1枚では書き切れないほど多くの恐ろしい病気の根源であり、自分だけでなくまわりの人たちにもその危険性を与えている、習慣病であり依存症という病気であることを喫煙される方には認識していただきたいと思います。